『21世紀の資本』/トマ・ピケティ(その1)

『21世紀の資本』/トマ・ピケティ

世間の多くの人と同じく、俺も2015年の正月休みを利用して『21世紀の資本』を読んだのだった(けれど、感想をまとめたりブログを更新したりするのが億劫で、気がつけば読み終えてから3年半も経ってしまっていた…)。読み終わっておもったのは、何しろボリュームのあるこの本だけれど、別にすごく意外なこととか、まったく予想もできないようなことが書いてあるわけじゃないんだなー、ということだ。その代わり、経済的格差が着実に拡大しつつあるというこの現代社会の状況を、その大元のところから詳らかにし、じつに細かく――うんざりするほど詳細に――分析した結果を教えてくれている。

ピケティは膨大なデータのなかから抽出した法則を示し、自由市場と資本主義は、国家による再配分という介入がなければ、あるいは戦争などの強力な外部要因がなければ、時の経過とともに不平等を拡大させ、反民主主義的な寡頭政治へと向かっていってしまう、そういった性質があるものだ、と述べる。本書が世界中で評判を呼び、大ベストセラーとなったのは、「最近の経済格差の拡がり具合ってやばいよね?」という素人的な実感を経済学の観点から実証的なデータでもって裏打ちしてくれた、というところが大きいのだろう。

そういうわけで、本書では、先進諸国が抱える直近の課題に対する明快な処方箋――貧困問題や高齢化、長期に渡る経済的停滞等々に抗するために、どのような方策を採るべきか――なんかが述べられているわけではない。ピケティがここで行っているのは、資本というものの傾向に関する分析と実証に過ぎないのだ。以下、簡単にノートを取っておく。

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資本主義先進国において経済的な格差が拡大している、という認識はごく一般的なものだけれど、では、じっさいのところ、格差というやつはどのように生じ、広がっていっているのか、ということを、ピケティは世界20カ国以上、200年あまりに渡る税務統計のデータを集計し、分析することによって実証的に説明していく。その分析の結論は、「そもそも資本主義のシステムには格差を発生させるメカニズムが内包されている」という極めてシンプルな内容になるのだけれど、膨大な統計資料のなかから裏付けとなる要素を抽出し、法則として導き出しているわけで、ここが本書のいちばんの売りということになるだろう。そしてまたピケティは、こうした構造に対抗し、格差の拡大を減速させるための政策についてもアイデアを提示している。データ分析→理論化→政策提言、と3つのフェーズをまたぐテキストになっているわけだ。

データ分析のフェーズでは、まず、格差とはそもそもいったい何を指すのか、それはどのように測定すればよいのか、という点が問題になる。ピケティは、一般に用いられることの多いジニ係数や貧困率などではなく、誰が富を持っているか、という点に着目する。とくに大きく取り上げられているのは、「1.総所得に占める所得上位者の比率」、「2.総資産/総所得の比率」、という2つの値だ。

1.は、”We are the 99%”などのスローガンでもよく知られる問題だ。きわめて少数の所得上位者たちが、国民の総所得のかなり多くの部分を占めている、というやつである。たとえばアメリカの所得上位十分位(所得階層の上位10%)の所得が総所得に占める割合ということでいうと、1910年代:40%→20年代:50%まで上昇→恐慌と大戦を経て35%まで低下→80年代以降は上昇を続け、現在は45〜50%程というところになる。

そして、2.は、ある国の資本蓄積(=土地や工場といった実物資本+海外への投資)と、国民の総所得との比率ということだ。この値も、1と同様、2つの世界大戦の間では小さくなっているが、それ以外の時期――資本蓄積が進んだ時期――ではかなり大きな数字になっている。(アメリカを含む西欧の先進国では、両大戦期は200〜300%、大戦前、そして現在では500%超、となっている。)

大量のデータを集計した結果明らかになったのは、1.も2.も、大恐慌と世界大戦、その後の急成長、という時期を挟んで、U字型のカーブを描くように値が変化していっている、ということだ。ピケティは、これらの値の上昇は、労働分配率の低下と資本分配率の上昇を示している、つまり格差の拡大を表すものだ、と言う。

なぜ両大戦期にこれらの値が減少し、格差が縮小したか、ということだけれど、この時期、戦争によって富が全体的にリセットされた(資本が破壊され、また、税率が高まった)こと、戦後のインフレで資産の実質価値が減少したこと、歴史的に見ても例外的な高度成長が継続したこと、などの要因が挙げられている。まあ、このまま戦争が起こらなければ、1.、2.の値は時とともに上昇を続け、持てる者と持たざる者の格差は、ますます拡大していくことになるだろう、というわけだ。

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