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『水と水とが出会うところ』/レイモンド・カーヴァー

水と水とが出会うところ (村上春樹翻訳ライブラリー)

もう何もかんがえたくない、何もしたくない。だってもう眼はしばしばするし、首はぐきぐき、頭の奥のほうなんかじわじわと痺れてきてる、って状態でオフィスを出るこんな夜は、どうしても肉が食べたくなってしまう。中央線を降り、駅前の商店街を歩いてねぎしに入り、もくもくと、ただ肉とごはんだけを見つめながら食べて食べて胃のなかを満たすと、ようやく人心地がついて、はあーーーってため息と一緒に全身から疲労がこぼれ出ていくのがわかる。おいおい、まだ水曜日かよ、今週あと2日もあるのか…。

オレンジの光に照らされたカウンター席で、食後の一服。何よりも気持ちを落ち着けてくれるハイライトを吸いながら、レイモンド・カーヴァーの詩集、『水と水とが出会うところ』を取り出して、痺れた頭のまま読んでいると、こんなラインに出くわして、俺はなんだか泣きたくなってしまった。

日当たりのいいハーバーに入って、みんなでわいわいやるというのがいいね。

ただただ盛大に楽しくやろう。詰らないことは考えないでね。

誰かを出し抜いたり誰かに置いていかれたり、とかそんなことは。

釣りをしたくなった人のためには釣り竿もあるぞ。魚はいくらでもいるよ!

僕らはヨットを少し外に出して走らせてみることもできる。

でも危ないことなんてないし、目の色を変えることもない。

愉快にやるのがいちばん、ひやひやしたくはない。

僕のヨットの上で、僕らは食べ、飲み、そして大笑いする。

僕はいつも思っていた。こんな航海を一度でいいからやってみたいなと。

友人たちと、僕のヨットで。(p.96「僕のヨット」)

幸せのイメージや穏やかさへの憧憬のような、でもそこにはきっと決して届かないとしっている諦念のような、だからこそ書かずにいられない諦めの悪さのような、ごちゃごちゃしたおもいが素敵なヨットに詰め込まれていく感じがする。ねえ、ヨットなんて本当はないんだよ、なんて台詞はここではぜんぜんお呼びじゃない。なぜって、そんなのはもう、誰だってわかっていることなんだから。


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