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『わがタイプライターの物語』/ポール・オースター

『わがタイプライターの物語』/ポール・オースター

オースターは、ごく若い頃に友人から安く手に入れたタイプライターをいまだに使い続けている。聞く限りでは、コンピュータというやつはどうも信用ならないもののようだし(間違ったキーを押すと、原稿がいきなり消えてしまったりするっていうじゃないか!)、そもそも、手元にあるタイプライターに何の不満も感じてはいない。であれば、どうしてわざわざ仕事道具を変える必要があるだろう!というわけだ。

そんな偏屈おっさんオースター愛用のタイプライターに、どういうわけか魅入られてしまったのが、画家のサム・メッサーである。単にそのタイプライターのルックスが気に入ったのか、タイプライターとオースターとの関係性に物語のきらめきを見出したのか、それはよくわからないけれど、ともかく彼はオースターのもとをたびたび訪れては、もう何年ものあいだ、タイプライターの姿を描き続けているのだという。本書におさめられているのは、メッサーが描いた作品たちの写真と、オースターがそれらに寄せた、タイプライターにまつわるちょっとした文章だ。文章のボリュームはごく少ないので、エッセイというよりは画集という感じの一冊になっている。

メッサーの絵は、カンバスに油絵の具をたっぷりと載せたダイナミックで量感のあるもので、画面いっぱいに描かれたタイプライターの姿には、妙に生命力が感じられる。ずらりとならぶキーの部分は歯のようだし、ペーパーベイルスケールは瞳のよう、まるで静物という感じがしない。頑丈で無骨で、余計なことはなにもしない、放っておけば何の音も立てない、ただの古びたタイプライターが、どこかポップでワイルドな生き物のように見えてくる。カンバス上にはオースターもいっしょに描かれることがある。ぎょろりとした目つきが特徴的なオースターと、その手元にひっそりと佇むタイプライター。なんだか陰気なコンビだけれど、そこに情熱を共にする者同士のあいだにだけ生まれる独特の連帯感のようなものを見出そうとするのは、そう困難なことではない。

我々はマンハッタンに住み、ニューヨーク州北部に住み、ブルックリンに住んできた。一緒にカリフォルニア、メイン、ミネソタ、マサチューセッツ、ヴァーモント、フランスにも旅行した。その間、書くのに使った鉛筆やペンは数百にものぼるだろう。車も何台か所有したし、冷蔵庫も何台か持ったし、何軒かのアパートや家に住んできた。何ダースかの靴をはきつぶし、何十というセーターや上着を着古して、無数の腕時計、目覚まし時計、傘をなくしたり捨てたりしてきた。すべての物は壊れ、すり減り、その目的を失う。だがタイプライターはいまだ私とともに在る。二十六年前に所有していたものの中で、いまも手元にあるのはこれだけだ。あと何か月かしたら、それはぴったり私の人生の半分、一緒にいたことになる。(p.44)

ひとつの物を、それだけ長いあいだ満足して使い続けていられるなんて、なかなかあるものじゃない。人生の半分を共に過ごした道具、そんなものがあるというのは、ちょっぴり心強く、頼もしいことではないかとおもう。


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