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『近松物語』

近松物語 [DVD]

早稲田松竹にて。これはもう、文句なく素晴らしい映画!こんなに美しいモノクロの映像は初めて見たかも!とおもったくらいだった。主人公は、商家の奥方、おさんと奉公人の茂兵衛。このふたりが、ふとしたきっかけで不義密通の疑いをかけられてしまう。この時代、不義密通なんていうのはもちろん超重大犯罪であるわけで、逃げまわった挙句ににっちもさっちも行かなくなった彼らは、とうとう琵琶湖に身投げしようと船を漕ぎ出すのだったが…!

まあ要するに、愛し合うふたりに次々と試練が襲いかかる、っていう王道も王道のメロドラマなのだけど、演出の仕方が素晴らしいからついつい引き込まれてしまう。なんていうか、カメラがひたすらに冷静なのだ。冷静というか、やや冷酷な感じすらするかもしれない。全編通してアップの映像がほとんど使われないんだけど、そのために観客は登場人物たちと同化せず、登場人物を俯瞰して見ているような気分にさせられる、とでも言ったらいいだろうか。そういう冷静なカメラが、一枚絵としての美しさにとことんこだわってます、って感じにばしっばしっと1シーン1シーンを切り取っていくわけで、作品全体には”悲劇”としての神話的な印象が与えられてもいる。

とにかく、どの場面もくっきりとおもい出せるほど鮮烈なんだよなー。おさんと茂兵衛は逃走中に互いに愛し合うようになるわけだけど、そのクライマックスとも言える琵琶湖のシーンとか、おさんが挫いた足で山道を駆け下りていくシーンなんて、一生忘れられないだろう。こういうシーンについては、何が素晴しいっていうか、もう、物語、映像、演技、音楽、すべてが絶妙に絡み合って、凄まじい緊張感を作り出している、としか言いようがない。

あと、やっぱりキャストも素晴らしくて、おさんを演じる香川京子も、茂兵衛を演じる長谷川一夫も、何とも言えないようなふしぎな美しさ、セクシーさがあるとおもった。茂兵衛は奉公人なんだから、あんまり色っぽいのもどうか、って気がするけれど、作品全体を包む神話的なイメージからすれば、これはこれでありなんだろうとおもう。いや、とにかくものすごくかっこいい映画だった。


『残菊物語』

残菊物語 [DVD]

早稲田松竹にて。溝口健二の超傑作として名高い本作だけど、うーん、俺にはまったく響いてこない作品だったな…。溝口映画の特徴と言われる長回しや、遠くから主人公たちをそっと見守るようなカメラ、モノクロながらも美しい画面など、たしかに見どころはたくさんある。アップこそほとんどないけれど、主演のふたりもばっちり美しい。

でも、なんなんだろうこのストーリーは!こんなしょうもない話で、どうしてみんな感動したりできるんだろうか!?って俺には超疑問だった。以下に物語のアウトラインを掲載しておく。

1.親の七光りで調子こいてた歌舞伎の二代目(尾上菊之助)だったが、ある日、弟の乳母に諭される

2.菊之助、ぼんぼんだった自分に初めてまともに意見してくれた乳母(お徳)に惚れる。身分違いの恋のはじまり

3.が、ふたりの関係がばれると、当然周囲からは反対されてしまい、勢いで菊之助家出。東京を離れ、大阪へ

4.大阪で芸を磨く菊之助のもとに、お徳がやって来る。つつましいながらも支えあって暮らすふたり

5.大阪での後見人が急死

6.菊之助は旅芸人の一座にまで身を落とす(それをそっと支えるお徳)

7.お徳、厳しい生活のうちに病身に

8.夫の将来を案じたお徳は、菊之助の旧友、福助に菊之助の復帰を懇願。自らが身を引く、という条件で菊之助の復帰舞台を用意してもらうことに

9.お徳の後押しもあり、菊之助がんばる

10.公演は大成功。菊之助、ついに東京歌舞伎に戻れることに。が、それはお徳との別れを意味していた

11.数年後、菊之助たちは大阪へ公演にやってくる。そこでようやく、お徳との関係を親父が認めてくれるように。が、お徳は病気のため死亡

…なんだよこれ!っておもう。全体的に、しょうもなさ過ぎやしないだろうか??お徳の見せる”女の意地”(なんとしても菊之助を一人前の役者にしてみせよう、っていう)とか、菊之助がついに復活するところなんかはたしかになかなか感動的ではあるけれども、とにかく、菊之助のふるまいが本当にどうしようもなさ過ぎていらいらしてしまう。上のアウトラインを見ればわかるように、こいつは、親父やお徳や周囲の作り上げた状況に、ただただ流されているだけなのだ。映画の最初から最後まで、2時間半のあいだ流されるだけ流されて、周囲にべったりと依存しているだけの主人公なんて、はっきり言ってぜんぜん魅力的じゃないよと俺はおもった。菊之助自身がまともに成長しているようにはどうしたっておもえなかった、ってところが致命的だった。

映像的には本当にクオリティの高い作品だとおもうのだけど、このストーリーだけはどうしてもだめだった。こんなに映画の展開にいらいらむずむずしたのはひさしぶり、ってくらい。


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