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『音楽』/三島由紀夫

音楽 (新潮文庫 (み-3-17))

ある日、精神分析医の汐見のもとを訪れた美しい患者、麗子。彼女は「音楽が聞こえない」と言うのだが…!

昼メロ風のプロットを用いて、性の深遠さ、神聖さに近づこう、という感じの、バタイユ臭がぷんぷんする一作。「わたくし、音楽が聞こえませんの」に始まって、くるくるとじつにいろいろな嘘をつき続ける麗子の心情が徐々に解き明かされていくのがメインの流れなのだけど、サスペンス的なこのプロットがあまり牽引力を持っていないようにおもえた。麗子が語るところの「音楽」(≒オルガスム)や、精神分析的な語りを作中に盛り込んでいく手法についても、作品が書かれた当時は「悪魔的魅力」を持っていたのかもしれないけれど、いま読むにはちょっと古くさいかなー、なんて気がしてしまって。

本作は全体的に、三島の作品にしてはずいぶんあっさりとした文章で書かれているのだけど、あー、なんかこういうのって三島っぽいなーとおもったところをちょっと引用。

右の物語のうちに、もし真実の要素があるとすれば、それは彼女が最初にプールサイドから岨道を降りて、眼下の海辺の岩頭に、鵜のような人影を見た、正にその瞬間である。彼女は最初、自分自身の喪の幻を見たと思ったかもしれない。次の瞬間、彼女は余人の企てて及ばぬ直感の力で、その黒い鵜の人影が不能者であるのを見抜いたにちがいないのである。/

それは、偶然というよりは必然の出会である。海風と、幸福な人たちの笑いさざめく声と、ふくらむ波のみどりとの中で、ただ一つたしかなことは、不幸が不幸を見分け、欠如が欠如を嗅ぎ分けるということである。いや、いつもそのようにして、人間同士は出会うのだ。(p.124)

後半部がキメキメだ。このキメキメっぷり、ケレン味をどう捉えるかっていうのが、三島の小説への評価に大きく関係してくるようにおもう。個人的には、”海風と、幸福な人たちの笑いさざめく声と、ふくらむ波のみどりとの中で”なんて、描写とは関係ない、ただのお飾りじゃんなー、とかおもってしまうことが多いのだけれど、この部分はなかなかかっこいい。


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