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『ロング・グッドバイ』/レイモンド・チャンドラー

ロング・グッドバイ (Raymond Chandler Collection)

じつはレイモンド・チャンドラーって初めて読んだのだけど、名作の誉れ高い小説だけあってかなりたのしめた。村上春樹も「訳者あとがき」で、本作の素晴らしさをものすごく熱く語っていて、それもなかなかおもしろい(っていうか、「訳者あとがき」だけで40ページ以上もある!)。

まあ読めば誰もが感じることだろうとはおもうのだけど、作中のメインテーマとして扱われている、フィリップ・マーロウとテリー・レノックスとの友情というか信頼というか、その関係の微妙な具合が何とも言えずいいんだよね。ぐっとくる。表面的には、2人はときどきいっしょにギムレットを飲んだりするくらいのつきあいだったわけだけど、最終的にマーロウはレノックスの濡れ衣を晴らすために自らの命を賭けることまでしてしまう。すでに死んだ男の殺人の嫌疑、それを晴らすって目的のためだけに、刑事に検事、ギャング、地方の権力者なんかを相手に、ひとり孤独な戦いを繰り広げるのだ。

…って、いやー、そんな”男の友情”的なお話なんて、湿っぽくて読んでられんよ、ってなりそうなものだけど、この小説、そのさじ加減がなんとも絶妙で。本作はマーロウの一人称で書かれているわけだけど、簡潔で抑制の効いた文体が物語と完全に噛み合っていて、ウェットにも、暑苦しくもなり過ぎないのだ。鋼のように研ぎ澄まされたクールな文章から、ときおりこらえ切れなくなって零れ落ちるセンチメンタリズム。それがじつに美しい。

「こんなものはただの見せかけだ」と彼はすがりつくように言った。

「しかしその見せかけを楽しんでもいる。そうだろう?」

彼はあきらめたように力を抜き、苦い微笑みを口もとに浮かべた。そして肩をすくめた。ラテン・アメリカンの人間がよくやるみたいに、大きく表情豊かに。

「もちろんだ。何もかもただの演技だ。ほかには何もない。ここは――」、彼はライターで胸をとんとんと叩いた。「もうからっぽだ。かつては何かがあったんだよ、ここに。ずっと昔、ここには何かがちゃんとあったのさ、マーロウ。わかったよ、もう消えるとしよう」(p.654)


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