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『オン・ザ・ロード』/ジャック・ケルアック

オン・ザ・ロード (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-1)

親友ディーンにひっぱられるように北アメリカ大陸を何度も往復する作家、サル・パラダイスの旅、というか放浪の物語。文章の持つリズムや熱、前のめり感、全力をふりしぼってる感がすばらしくて、冒頭からぐっとひきこまれて読んだ。全編通してとにかくテンション高く、アグレッシブな波動を放っていて、身体がどんどんのってくるような感覚がある。かんがえることよりとにかく動け、動きつづけろブローしつづけろ、って急かされ、駆り立てられるよう。とにかく読んでいてたのしいし、どうしたってわくわくしてしまう。

かっこいい場面がとても多い小説だけど、とくに圧巻だったのは、サンフランシスコの夜、ジャズクラブでのシーン。もう、とろけそうに熱い。

テープであちことつぎはぎしたアルトサックスを持ったチビのおばあちゃん子はビーズのようなきらきら光る目をしていた。小さな足は曲っていて、脚全体はひょろっとしていた。跳びまわり、サックスを振りまわし、足を忙しなく動かし、目はお客のほうにじっと注ぎ、けっして吹くのをやめない。/

トーンは鈴のように澄み、高くピュアで、二フィート先からこっちの顔にじかに吹きかかってきた。ディーンはやつの真ん前に立ち、この世のことをいっさい忘れて頭を下に向け、両手を打ち合わせていた。全身が踵を軸に跳びはね、絶え間なく噴き出す汗が締めあげられた襟のなかに奔流のごとく流れこんで足元に水たまりを作っている。ギャラテアもマリーもいたが、そのことにこっちが気がつくまで五分かかった。ふーっ、フリスコの夜だ。ここで大陸が終わり、疑惑も終わる。退屈な疑惑と愚行よ、グッバイだ。ランプシェードがビールをのせたお盆を持って声を張りあげていた。やることなすことにぜんぶリズムがあって、ウェイトレスに声を張りあげるのにもビートがあった。「ヘイ、ベイビーベイビー、道をあけて、道をあけて、ランプシェードのお通りだ」空中高くビールを持ちあげてウェイトレスの脇をすりぬけ、ばあーんとやかましくスイングドアを押してキッチンに入り、コックたちと踊って、汗ぐっしょりで引き返してくる。テナー吹きはコーナーのテーブルの前にみじろぎもしないで座り、目の前のドリンクには手もつけず、東洋人のような目で虚空を見つめ、両手を両脇にだらりと床につくほど垂らし、舌をべろんと出したみたいに足を広げ、体をぐったりと疲労困憊のなかに、失神したような悲しみのなかに、自分の思いのなかに沈みこませていた。この男は毎晩自分で自分をノックアウトして、他人にとどめを刺してもらっているのだ。男の周囲ではなにもかもが雲のようにたゆたっていた。そして、あのチビのおばあちゃん子のアルトサックスは、あのチビのカーロ・マルクスは魔法のサックスで跳びはね、モンキーダンスをし、二百ものブルーズのコーラスをつぎからつぎへと熱狂的に吹き、エネルギーの衰える気配も、終わらせようという様子もまったくなかった。部屋ぜんたいが震えていた。(p.282,283)

翻訳にもグルーヴ感があってすごくいいとおもうんだけど、でもやっぱり英語のリズムのかっこよさはまた別種のものとしてある気がする。たとえば、

「さあ、おまえの道(ロード)はなんだい?――聖人の道か、狂人の道か、虹の道か、グッピーの道か、どんな道でもあるぞ。どんなことをしていようがだれにでもどこへでも行ける道はある。さあ、どこでどうする?」(p.351)

ってところは原書だと、

‘What’s your road,man? –holyboy road,madman road,rainbow road,guppy road,any road. It’s an anywhere road for anybody anyhow. Where body how?’

だったり。めちゃくちゃかっこいい。声に出して読んだときの切れ味、快感がすごすぎる。

On the Road (Essential Penguin)


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