『たのしいムーミン一家』/トーベ・ヤンソン

『たのしいムーミン一家』/トーベ・ヤンソン

「ムーミン童話全集」の二冊目。ある春の日、ムーミントロールたちは山で黒いシルクハットを見つける。それは、「もしなにかが、しばらくその中にはいっていると、すっかりべつのものにかわってしまう」ふしぎな性質を持った、「まもののぼうし」だったのだが…!

前作『ムーミン谷の彗星』のようなダークで終末的な雰囲気は後退し、春から夏の終わりにかけてのムーミン谷を舞台に、ほのぼのとしたエピソードやちょっとした事件が連作短編の形式で描かれていく。ムーミンシリーズの牧歌的・ユートピア的なイメージがはっきりと前面に出された一作だ。

ほのぼのとしていながらも、物語全体にはどこかクールな印象がある。それはおそらく、各登場人物たちの個人主義が徹底しているためだろう。彼らは基本的に、「みんなに合わせよう」とか、「場の空気を読もう」とか、「こういうときは、こうするもんだろ」といったことを言わないし、それでいて、互いに相手の存在と相手の意見、自分との相違をきちんと受け入れてもいる。他人との距離のとり方、その尊重の仕方というのが上手なのだ。

ムーミン谷のユートピア性というのは、そういったクールで成熟した個人主義と、ムーミントロールたちのキュートで子供っぽいふるまいとの組み合わせによって成立しているのだろうとおもう。また、作品全体を通して、教訓めいたところ、大上段に振りかぶったテーマのようなものがほとんど見当たらない、というところも、何が起こってもそれを過剰に気にすることはない、というのんびり気分を補強しているように感じられる。

そんなわけで、ムーミンやしきは、いつでも満員でした。そこでは、だれでもすきなことをやって、あしたのことなんか、ちっとも気にかけません。ちょいちょい、思いがけないこまったことがおこりましたが、だれもそんなことは、気にしないのです。これは、いつだって、いいことですよね。(p.17,18)

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