『ムーミン谷の彗星』/トーベ・ヤンソン

『ムーミン谷の彗星』/トーベ・ヤンソン

以前、堀江敏幸『回送電車』で、「ヤンソンの原作ではスナフキンという名が存在しない」と書かれていたのを読んで以来――「スナフキン」という音は英訳からの転用で、仏語訳では「ルナクレリカン」、原典のスウェーデン語では「スヌス・ムムリク」(嗅ぎたばこを吸う男)という名前であるらしい――なんだか気になっていたムーミンを読む。ムーミンシリーズの本を手に取ったのは、たぶん小学生のとき以来だ。

本作は「ムーミン童話全集」の一冊目。ムーミン谷に彗星が接近、このままでは地球が壊滅してしまうのでは…という危機的な状況を舞台としている。ムーミントロールとスニフは彗星のようすを調べるために天文台へと向かい、その途上でスナフキンやスノークのおじょうさんらと出会い、友達になる。なにしろ彗星衝突間近、って終末的な状況なわけで、全体的にグルーミーというかひんやりとした雰囲気の物語になっているのだけれど、登場人物たちは皆ひたすらにマイペースで、周囲で何が起こっても自分の関心事から目をそらすことがない。それが作品の雰囲気をポップで風通しのよいものにしている。

なお、本作は1946年、終戦直後に書かれた作品ということで、「彗星」が戦争や空襲のメタファーのように感じられる箇所は多い。

「うん、天文台へね。ぼくたち、危険な星を観測して、宇宙がほんとに黒いかどうか、しらべるんだ。」
と、ムーミントロールが、まじめな顔でいいました。
「それは、長い旅になるよ。」
そういったきり、スナフキンは、かなりのあいだ口をとじていました。
コーヒーができあがると、コーヒー茶わんについでから、また口をひらきました。
「彗星というのは、わからないものだ。どこからきて、どこへいくのかねえ。まあ、こっちへはこないだろう。」(p.52,53)

そのような環境下でも、ムーミントロールたちは幼い子供らしさを失うことなく、しかしそれなりに使命感を持ちながら、終末に向かう世界を旅していく。怖いけれども、冒険はたのしい。あるいは、怖いからこそ、冒険はたのしい。各キャラクターがそれぞれにキュートなのはもちろんだけれど、そのコントラストの美しさがとくに印象的だった。

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