『宇宙舟歌』/R・A・ラファティ

宇宙舟歌 (未来の文学)

ホメロスの『オデュッセイア』を下敷きにした、奇想天外でクレイジー、危機また危機って物語のくせにとにかくドキドキさせられることのない、脱力SF。なのだけど、それでいて延々と読んでしまうようなおもしろさもちゃんとあって、頭のよさとセンスのよさを感じさせる小説だった。俺がいままで読んだことのある小説のなかでは、展開のむちゃくちゃっぷりはエイモス・チュツオーラの『やし酒飲み』に、あふれる知性で脱力ギャグをやってのける感じはダグラス・アダムズの『銀河ヒッチハイク・ガイド』のテイストにちょっと近い気もするけど、本当に似ているのかどうかはよくわからない。

なにしろ『オデュッセイア』がベースなので、セイレーンっぽいキャラクターやキュクロプスっぽいキャラクター、テイレシアスっぽいキャラクターなんかが次々と登場してくる。あー、あの元ネタがこんなキッチュでチープな扱いに…ってのがまずたのしいし、文章や会話のひとつひとつもいちいちふざけていて、なかなかわらえる。

続いて立った会員は、派手な格好をした軍人タイプで人間風の服装をしていたが、機略縦横な戦争と凄絶な征服を盛り込んだ起伏に富んだ話を語った。主人公は横道サリイという名の偉大なリーダーだった。血湧き肉躍る物語で、ロードストラムは大いに興奮した。

「パケット、パケット」ロードストラムは熱をこめて囁いた。「この話は凄いぞ。この展開はたいしたもんだ。ああ、こんな戦争に加われるものならなんでもするのになあ!こんなリーダーに会えるんだったら何をやってもいい!」

「ロードストラム、ロードストラム」パケットはたしなめた。「あの男が喋っているのはあんたと俺たちのことだぞ。これは俺たちの物語だ。横道サリイというのはあんた自身のことだぞ、ロード・ストーム。今あいつが喋っていることには覚えがあるだろう?ワムタングルの六日戦争の話だぞ。そうそう、いまのくだりはあんたが考え出した賢い計略のことじゃないか、ロードストラム。こいつが話してるのは俺たち自身の物語だ」

「ああ、そんなことはわかってるよ、パケット。でもこの男の話は実際に起こったことよりもはるかに面白い!パケット、なんて凄い戦いなんだ!なんて優れたリーダーなんだ!ああ、俺もその場に居合わすことができたらなあ!」

ロードストラム船長の心の中にはまだまだ少年の心がたっぷり残っていた。(p.204,205)

こんな風に、読者のためにちょいちょいツッコミどころを残しておいてくれている感じがたのしい。

作品の構成としては、短いくせにやたらと波乱万丈なエピソード――毎回のように一行は死にそうななったり、じっさいに死んだり、かとおもえばいつの間にか生き返っていたりする――がいくつも続いた連作のようになっているのだけど、そのエピソードとエピソードのあいだには、やっぱり『オデュッセイア』的な感じに幕間の合唱歌(なんていうんだっけあれ?)が挟まっている。そういうのも含めて、とにかくぜんぶふざけていたり適当だったりするところがいい。

舟歌の欠落から疑惑が浮かんだ

健啖な船乗りはいかにして切り抜けた?

聞いた話はすべてに疑いを抱かせた

本当のはずがない!だが男たちはみんな助かった

冗談で張った虚勢を信じるな

彼らが味わい、抜けだした恐怖の深さよ

勇敢な男たちが泣き喚いたのはいずこか、問うなかれ

ついでに船乗りたちが嘘吐きなのも忘れるなかれ(p.165,166)

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