『ニューロマンサー』/ウィリアム・ギブスン

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

「サイバースペース」ってことばを発明したウィリアム・ギブスンの長編第一作目にして最も有名な作品。以前読んだときは、あまりの文章のわかりにくさに途中でくじけてしまったのだけど、短編集『クローム襲撃』を読んでから再挑戦してみると、わりにスムーズに読んでいくことができた。いくつかのキーワードがなんとなくでも理解できるだけで、かなり読むのが楽になるみたいだった。

とはいえやっぱり文章はすっきり明快とはいい難い。たくさんの用語が説明なしに出てくるし、ハードボイルドの手法に則って描かれた小説なので、キャラクターの心理描写も最小限。おまけに単純な景色をやたらに凝った言い回しで描写したりするものだから、読んでいくのに結構な集中力が必要だった。ギブスン独特のややこしい比喩がうまく決まっているところはたしかにかっこいいのだけど、単に難解になっているだけじゃ…?っておもえるような部分もちょいちょいあったような気がする。

ただ、この冒頭の一文のつくりだすイメージは文句なしにかっこいい。鮮烈。

港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。(p.11)

まあ、ムーブメントを巻き起こして一時代を築いた作品だから、どうしても古臭くおもえるところはある。作中で展開されるサイバースペースのイメージは、いまとなってはもうすっかり使い古されているし、ハードボイルド調の文体からもなんだか時代が感じられる。だから、この小説に古典としての力強さがあるのは、いわゆるサイバーパンク的な小道具のいろいろが登場するからなのではなくて、テクノロジーが発展していくことで社会はいかなる変化を被ることになるのか、っていうようすをギブスンが明確に描き出すことに成功しているからなんだろうとおもう。世界はひたすらに混沌としたネットワークであり、人間の欲望はテクノロジーの力を借りて無限大にまで引き伸ばされている。当然そこでは善悪のような単純な二項対立などは存在し得ず、人はとにかく持てるリソースを最大限に活用しながら荒んだ世のなかを生き延びていくしかない。そんな不穏かつ肥沃な未来のイメージはちょっと不気味で、そしていまでもなかなかに魅力的だった。

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