『ボディ・アンド・ソウル』/古川日出男

ボディ・アンド・ソウル (河出文庫)

小説家であるフルカワヒデオ自身を語り手として、日常のいろいろ――食べ、飲み、散歩し、妄想し、語り、書き、読み――がどんどん描かれていく小説。その語りはひたすらに饒舌で、とにかくエネルギッシュだ。書かれている内容はいっけん日記風でありながらも、読み進むにつれて虚実はゆるゆると入り混じっていき、言葉の奔流が現実を侵食、捏造していっているようにもおもえてくる。

全体的にかなりすきな小説だったんだけど、とくにおもしろかったところのひとつは、フルカワの妄想が突如として暴走し、物語をがんがんに作り上げていっちゃう、ってところ。たとえば、なぜか“ルイ・ヴィトン”からインスピレーションを得て、一気に小説が湧き上がりそうになっているシーンはこんな感じ。テンション高い!

ヴ…ヴィ。ヴィトン。

閃光のように僕の視野にLVのモノグラムが飛来する。そして知る。僕の脳味噌は、この数日間のあいだに識閾下でしっかり労働(ロードー)し、無勝手流の”ルイ・ヴィトン攻略”なる体験をしっかり発酵させていたのだ。あ!と僕は叫んだのであった。声を発した刹那はまぬけ顔であっただろうが、第二の刹那、僕は鬼の形相に転じた。変じたはずである。鏡を見ていたわけではないからわからん。僕はちちちちちちちち、ちず、と喚(おめ)きながら東京全図を探した。(p.102)

そうだ、主人公は俺にしちゃおう。こんな馬鹿なミステリーを発見して大騒ぎする人間は、おそらく妄想度のきわめて高い体験型のアホな作家にちがいない。それ、俺じゃん。今月十日からの”ルイ・ヴィトン攻略”をそのままノべライズすればいいじゃん。うわあ大発見。で、こうやってね、キッチンで鯖の味噌煮を作っていてね、その瞬間になにやら閃いて冷蔵庫のドアに呪われた東京全図を貼りつけて、ユリイカ(わかった)!ついに霊的真実はここに啓き示されて、秘密のメッセージは作家フルカワヒデオに届けられたのであった。(p.105)

古川日出男はこのくらい軽い文章のほうがタイプだなー。畳みかけるような語り口の、ハードで壮大な作品は、なんとなく無理しているように、てか、文体の勢いが過剰すぎるようにおもえてしまうこともあるのだけど、この小説の文章のリラックスした感じはすごくすき。

なんていうか、軽やかで抜け感があるのがいいのかな。でも一気に読むと身体にどっとくるみたいなところは、たしかに他の古川作品と同様で、なんにしても、文体に独特な強度を持っている小説家だよな、なんていう風におもう。

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