『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』/カート・ヴォネガット・ジュニア

ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (ハヤカワ文庫 SF 464)

1960年代のアメリカ中西部。先祖からの莫大な遺産を相続した大富豪、エリオット・ローズウォーターが、ありとあらゆる貧しい人々に金をじゃんじゃん分け与えまくる物語。エリオットは博愛主義的な人物って言ったらいいのか、貧しい人たちに同情して、金銭的な援助もすれば、やさしく話を聴いてあげたりもするわけだけど、彼の行動はまあやっぱり常軌を逸しているとしか言いようがないわけで、結果として自らのいちばん身近な存在たる家族をずいぶんと傷つけ、損なってしまう。金と人間との関係性について問題を提起する小説であり、また、この社会に覆いかぶさったディスコミュニケーションをシニカルに捉えた小説でもある。

作中に登場するSF作家のキルゴア・トラウトは、エリオットにこう語っている。

「あんたがローズウォーター郡でやったことは、断じて狂気ではない。あれは、おそらく現代の最も重要な社会的実験であったかもしれんのです。なぜかというと、規模は小さいものだけれども、それが扱った問題の無気味な恐怖というものは、いまに機械の進歩によって全世界に広がってゆくだろうからです。その問題とは、つまりこういうことですよ――いかにして役立たずの人間を愛するか?

いずれそのうちに、ほとんどすべての男女が、品物や食料やサービスやもっと多くの機会の生産者としても、また、経済学や工学や医学の分野の実用的なアイデア源としても、価値を失うときがやってくる。だから――もしわれわれが、人間を人間だから大切にするという理由と方法を見つけられなければ、そこで、これまでにもたびたび提案されてきたように、彼らを抹殺したほうがいい、ということになるんです」(p.288)

ここでかんがえてしまうのは、ある人が“役に立つ”ってどういうことだろう、“価値がある”ってどういう意味なんだろう、ってことだ。いったい、何に対して、誰に対してそうでありうるのか、あるべきなのか?そして、大勢いる人間のなかから、特定の誰かを選び出して愛するっていうのは、いったいどういうことなのか??もちろん、この物語のなかでも、その問いに対する答えらしい答えを見つけることはできない。

作品全体としては、正直言って、いままでいくつか読んできたヴォネガットの小説のなかではいまいちかな、あんまり完成度は高くないかもかなー、なんて、俺は読みながらおもっていた。なんていうか、小説全体がグルーヴしていく感じがあまりないし、上に引用したキルゴア・トラウトの台詞のあたりなんかも、たしかに感動的ではあるんだけど、だいぶ唐突な印象で。とは言っても、この小説が扱っているテーマが切実なものに感じられたのはたしかだし、いろいろとかんがえさせられるところもあるわけで、あーそれってやっぱりいい小説ってことになるのか、とか、いま書きながらちらりとおもって、ヴォネガットはほんと外さないよなー、って感心してしまったのだった。

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